「ドヤ顔をさせてくれ」 〜承認欲求を利用したエンゲージメント向上の手法〜

「ドヤ顔をさせてくれ」
〜承認欲求を利用したエンゲージメント向上の手法〜

2023/9/8 Fri.
DIST.41「ゲームから学ぶUI/UX 2023」
@migi
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自己紹介

右寺 隆信 @migi

合同会社 MIGI
データアナリスト / フロントエンドエンジニア

サービスの数値改善の相談を受けたり
フロントエンドの開発をやってたりします

https://migi.tech

ゲーム内の
「ドヤ顔システム」

突然ですが、私はゲームの中の
「ドヤ顔システム」
がけっこう好きです。

「ドヤ顔システム」とは?

完全に私の造語です。
もっと良い名前がほしい……。

具体的には次に見るような
二つ名バッヂスキン
などの仕様を指すと思っておいてください。

以下、紹介するものはどれも
「ミッションをクリアしてゲットできる」
「それらを他のプレイヤーが認識できる」
という特徴があります。

二つ名

多くのゲームで見られる仕様ですが、
今年6月にリリースされたDiablo IVを例に挙げます。

Diablo4 logo

Diablo IVは面白いのでみんなやりましょう。

ハクスラ知らない人
→ Diablo IVやってみよう

ハクスラ知ってるけどあまり好きじゃない人
→ Diablo IV試してみて

ハクスラ好きな人
→ Diablo IVやらない理由がない

Diablo IVではプレイヤーネームとは別に
「二つ名」を設定して他のプレイヤーにも表示できます。

Diablo4 image

Diablo IVの二つ名は前半と後半の2つのパーツに分かれており、
それらを自由に組み合わせることで好きな二つ名を名乗れます。

Diablo4 image

クズ多すぎ問題。

Diablo4 image

Diablo IVではこれらの二つ名をゲットするためには
特定のミッションをクリアする必要があり、
名乗りたい二つ名がある場合はその条件を満たすために
ミッションにチャレンジする必要があります。

スケルトン系のモンスターを○○体倒す、
ソーサラーを使って凍結状態の敵を火炎属性の魔法で○回倒す
など

バッヂ

こちらの例はApex Legendsがわかりやすいかと思います。

Apex Legendsではプレイ開始時やキル時にほかのプレイヤーに
見せるプロフィール情報を編集できます。

ApexLegends image

UI要素としては
キャラスキン・キャラポーズ・バナー背景・バッヂ・戦績
があります。

このうちバッヂ・戦績については個人のプレイの成果が
反映されることになります。

(前者3つはガチャ等でゲット)

バッヂにはプレイ中の特定の成果でゲットでき、
自分で任意のものを3つ選んで表示できます。

たとえば、先ほどの画像の一番上のハンマーのバッヂは
1プレイ中に2,000ダメージ以上を記録すること
が取得の条件になります。

戦績の部分に何の情報を表示するかは
自分で選択できます。

たとえば、私であれば先ほどのように全キル数と
スナイパーライフルでのキル数を表示することで
他のプレイヤーに「オレはスナイパーライフルをよく使うぞ」
というアピールをしています。
上手いとは言っていない

スキン

こちらはあらためて特に説明する必要も無い気がしますが、
私が大好きなCall of Dutyシリーズで
説明させてください。

Call of Dutyでは様々な武器が登場し、
プレイヤーはその武器のスキン(見た目)を自由に変更できます。

ただし、スキンを開放するには武器ごとに用意された
様々なミッションを達成する必要があります。

ミッションには、
その武器でヘッドショットキルを○回おこなう、
その武器で死なずに3キルを○回おこなう
などがあります。

最新作では1つの武器に対して4種類のスキンがあり、
全武器合計で300種類弱ものスキンがあります。

CoD image

中にはこんなギャルっぽいスキンも……。

CoD image

このそれぞれの武器のミッションもそれぞれ大変ですが、
先ほど言った各武器の4種類のスキンの
さらに上位のスキンもあります。

以下、オタクの早口。

ある武器に設定された4種類のスキンを集めて初めてチャレンジできるミッションを達成してゲットするゴールドスキン、 各武器種(サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフルなど)内の全武器のゴールドスキンをゲットして初めてチャレンジできるミッションを達成してゲットするプラチナスキン、 全武器種の全武器のプラチナスキンをゲットして初めてチャレンジできるミッションを達成してゲットするポリアトミックスキン、 そしてなんならそれより上位のスキンも存在してたり

これらの上位のスキンを使ってる他のプレイヤーを見ると
「こいつはヤバいやつだな……。」
と若干引いてしまいます。

まぁ、今作が面白すぎて私も初めて
そのポリアトミックスキンをゲットしちゃったんですが。
超かっこいい。

Final Fantasy XIVもスキン的な要素は多いですよね。

自由に着替えられていろいろなコーディネイトを
楽しめる服装もそうですし、特定の強いボスを倒さないと
ゲットできないマウント(乗り物)も。

ストーリーを進めれば普通にチョコボはゲットできますが、

FF14 image

派手なかわいいやつは高難易度コンテンツを
(何度も)クリアする必要があったり。

FF14 image

「ドヤ顔システム」
のメリット

ここまで見てきた二つ名・バッヂ・スキンの仕様はどれも
「ミッションをクリアしてゲットできる」
「それらを他のプレイヤーが認識できる」
という特徴がありました。

もちろん、前者の「ミッションをクリアしてゲットできる」
という要素だけでもユーザはそれのために多くの時間をゲームに
費やしてくれると思います。

ポケモンが代表的な例だと思いますが「図鑑を埋めたい」などの
収集欲はゲームデザイン上、重要な要素の1つです。

しかし、そうやってゲットした要素を
「他のプレイヤーが認識できる」という仕様が
あることでそのミッションをおこなう、
より強いモチベーションになると私は考えます。

「オレはがんばってミッションをクリアして
こんな素敵な二つ名・バッヂ・スキンをゲットしたんだぜ!」

「ドヤ!!!」

このように、ドヤ顔システムにはユーザが達成感を感じ、
自身の努力やスキルが認知される機能を提供できるという
ユーザ満足感向上のメリットがあります。

これにより、ユーザは自己成就感を感じ、
サービスに対するポジティブな経験を得ることが
期待できます。

また、達成した実績を見せびらかすことができる仕様は、
ユーザが長期的にサービスを利用し続けたいと
感じさせる効果を生み出します。

これによりユーザはサービスに対する愛着を持ち、
エンゲージメント・ロイヤリティを強化します。

さらに、設定するミッションを適切なものにすることで
ユーザの行動を特定の方向に導くことができます。

これはビジネスサイドの目標達成に対する貢献
を可能にする強力なツールともなります。

ユーザ満足感向上

エンゲージメント・ロイヤリティの強化

ビジネスサイドの目標達成に対する貢献

これらの強いメリットも持った仕様こそが
私が言う「ドヤ顔システム」となります。

ウェブサービスにおける
「ドヤ顔システム」

もちろん、この話は目新しいものではありません。

既存のサービスにも私が言うところの「ドヤ顔システム」
を仕様として導入しているものは多くあります。

このあたりで一番最初に思いつくのは stackoverflowですね。

StackOverflow image

stackoverflowでは、そのユーザーがコミュニティでの積極的な
参加や有益な貢献をしたかを示す信頼度という仕様があります。

また、下図のようにどのような活躍をしているかを示す
バッヂの仕様も取り入れられています。

StackOverflow image

また、Twitterにおける
follower数の表示も似たような効果を持つ仕様に思えます。
(follower数の多さはそのまま自慢にもつながる)

いまは仕様が変わってしまいましたが一部のユーザに
付与されていた公式マークも似たような効果を持っていました。

1人の古参ユーザとしては、短いID登録時期の表示
ちょっとドヤ顔できる場所だったりします。

Twitter image

また、国内のサイトではボドゲーマという
アナログゲームのレビューサイトにもドヤ顔システムがあります。

Bodogama image

ボドゲーマではレビューやルール説明を投稿することで
称号というものがレベルアップしていきます。
(下図の「勇者」の部分)

Bodogama image

ほかにも多くの例がありそうですが、
とりいそぎこのあたりで。

まとめ

ここまで見てきたように、
この「ドヤ顔システム」には数多くのメリットがあります。

ソーシャル要素があるサービスでは例えそれがtoCでなく
toBサービスでもそのサービスをより良く使ってもらうために
使えると思います。

頭の片隅にこのアイディアを入れておいて
使えるときには使っちゃいましょう。

一点、注意としてはドヤ顔させるためのミッションを
どのようなものにするかはしっかりと考えるべきです。

サービス提供側がビジネス的に何の得にもならないような
ものをミッションにするべきではないですし
ユーザを無駄に疲弊させるようなものもアクティブ率が
落ちるだけなので避けたいところです。

このあたりのゲームデザイン・ゲームバランスの話は
過去の「ゲームから学ぶUI/UX」でもしているので
興味がある方はぜひ。

過去の登壇資料

ゲーム内でも、ウェブサービス内でも
「そういえばこれもこのドヤ顔システムだ!」
みたいな良い例があれば
Twitterに#dist41のハッシュタグをつけて投稿して
私に教えてもらえると嬉しいです。

m(_ _)m

以上、ご静聴ありがとうございました。

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